#03

ブランドの立場とプラットフォームの立場
ブランドビジネスにおける流通デザインの重要性

フリッツ・ハンセン ジャパン

代表 鈴木利昌さん

北欧デザインの象徴として、世界中で高く評価されているフリッツ・ハンセン。今回はフリッツ・ハンセン ジャパン代表の鈴木利昌さんに、家具・インテリア業界が持つ流通やブランドビジネスにおける課題について話を聞きました。聞き手は、フライミー代表の坂本如矢が務めます。(インタビュアー 竹田芳幸、ライター 石川歩)

「ブランド側にいる僕たちは、愛で負けちゃいけない」

フリッツ・ハンセン ジャパンとフライミーは、どのようにお付き合いを始めたのですか?

フリッツ・ハンセン ジャパン 鈴木利昌(以下、鈴木):取引をスタートしたのは、もう何年前になるんですかね。その時点では既にFLYMEeの存在がすごい、もう業界でも話題になっていて。家具業界で今後伸ばしていこうと思うなら、FLYMEeは絶対に外せない販路になってきていたんです。販売におけるルールやEC戦略には、ブランドそれぞれに考え方はあると思うんですけど、我々にとってはFLYMEeが無視できない存在になっていたので、ルールを度外視しても、もうやるべきだろうっていうのを進めて始まったんですよね。

 

フライミー 坂本如矢(以下、坂本):フリッツ・ハンセンが、かなり流通を整理していた時期でしたよね。鈴木さんなんて、業界の一部ではものすごくうるさい人だと思われてますよね。

 

鈴木:そうですね、基本的に販売店さんにはある程度のルールを課していて、実店舗がないビジネスっていうところは、我々としてはお断りをしています。実店舗があったら、まずは実店舗でどんなふうにフリッツ・ハンセンを販売してくれるのかっていうところがベースにあって、そもそもEC販売はその先のステップになるんです。EC専属でやっている会社さんとの取引は基本的になかったんですよ。現時点でも御社しかないんですけどね。

 

坂本:ブランドビジネスはしっかり流通のデザインをしないと、中長期的に見たら、商品の価値もブランドの価値も上がっていかない。もっと言えば、売上も上がっていかないですからね。

 

そのあたりのブランディングや流通の考え方に関して、名だたるブランドの中でもフリッツ・ハンセンはかなりシビアですよね。鈴木さん自身もかなりシビア。

鈴木:それは間違いなくそうだと思います。それは、僕が前職のブランドに在籍してたときにやってきたことを、今フリッツ・ハンセンでも近いことをやってるんですけど。その時にもECが課題で、実店舗の店頭展示や販売方法については細かなルールがあるのに、ECは野放しだった。そこに対して、いろいろとルールをつくって整理していったら、やっぱり売上げも伸びましたし、何よりもブランドとして正しい立ち位置に行けたという経験があったので、それを応用した感じですね。一応、前職では家具も扱っていましたが、ベビー用品の業界だったので、家具業界の人間ではなかったという認識なんです。この会社に入って、家具の業界でもそれをやってみたらどうなのかなっていうので、その手法を持ち込んでみたってとこなんですけど。

 

決して僕が何かすごく革新的なことをやったかっていうと、そんなことはなくて。みんなやったらいいのにって思ってることを普通にやっただけなんですよ。ただ理論は理解できていても、なかなか行動を起こすところまでいかないブランドも多いかもしれません。

 

坂本:フリッツ・ハンセンは先駆ですよね。

 

鈴木:そこは自負しています。ただ、小売店やECにルールを設けて、かなり整理したにもかかわらず、その後、EC専業のフライミーと取引を始めたわけですから、業界の中にはあまり快く思わない方もいらっしゃるかもしれません。

 

坂本:どうなんでしょうね。でも、他のリテーラーというか実店舗とFLYMEeは売れるプロダクトも結構違いますからね。そもそも顧客層も全然違いますし。実際は食い合うんじゃなくて相乗効果をつくれますから。そこは他社ECとFLYMEeの大きな違いだと自負しています。

 

鈴木:そうですね、そこは取引してみて驚きました。

リアルで販売することを大切にしているフリッツ・ハンセンが、EC販売のパートナーとしてFLYMEeを選んだ理由は?

鈴木:我々のようなブランドは、リアルの場でブランドの世界観をしっかり伝えていかないと「憧れのブランド」として認知されないと思っているんですね。商品単体で走らせて、プロダクトの認知度を高めたいわけではありません。リアルの場でフリッツ・ハンセンの世界観を表現してくれるプレイヤーと出会うために、まずはECの整備が必要でした。

 

ECという販路において、モールに軸を置かず、独自の世界観で独自のプラットフォームがあるって、もうFLYMEeしかないんですよ。唯一無二の存在で、見渡すとFLYMEeしかないので、必然的にFLYMEeで販売することになる。それは多分業界の人が見たら、当然のように思うことなのかなと感じます。

「愛」の共鳴

お互いの初対面の印象を教えてください?

鈴木:正直お会いする前は、ビジネスとして家具のECをしているのかなというイメージを持っていました。サイト自体はすごいと思っていましたが、FLYMEeを見ると家具というものに対してどういうスタンスなのかなと思って。でも実際に坂本さんにお会いしたら、すごい愛があるし、家具のことをよくわかってらっしゃるなって思ったし、業界のこともよく見ているなと感じました。愛がなくてもビジネスが成り立てばいいという考え方もありますが、愛があるからこそ、より一緒に何かやろうって思えたっていうのはありますよね。

 

坂本:「FLYMEeが一見どういうスタンスなのかわからない」って言ってもらえるのは、僕にとっては最高の誉め言葉ですね(笑)。そこが狙いなので。業界的には僕が表に出てないから、あんまり僕の人物像や考えがよく分からないし、フライミーって本当はどんな感じなんだろうって。業界的にはね、全然わかんないと思います。

 

鈴木:そうですよね。でもみんな行って話してみて、こういう会社だったんだなと絶対思ってる。

 

坂本:実際はちゃんと愛がある会社だなって思ってくれてるんですかね(笑)。

 

鈴木:もちろん、もちろん。絶対そうですよ。僕は業界に対して、ブランドに対しての強い思いがある中で、販売方法や流通において一定の基準をつくって改革していったわけですが、実は僕の思いっていうところに共感してくれた業界の人って、多くはないんですよ。

 

僕はブランドのためにも業界のためにも本当はすごく良いことをやってるつもりなのに、皆さんのためにもなるし、とにかく良いことをやってるつもりなんだけど、なかなかそれをポジティブに捉えてくれる人は少なかった。坂本さんは多分初めてポジティブに捉えてくれて、それを僕に伝えてくれた方という印象ですね。すごく嬉しかったですよ。やっぱり見てくれている人はいるんだなと本当にそのとき思ったんで。本当にすごいなと思って。

 

僕、坂本さんと初対面のときに、前に在籍していたブランドでこういうことをやってたって言ってないのに、もうご存知だったし。「なんでこんな知ってるんだろう」みたいなところまですでに知ってらっしゃったんで、それはすごいなって思いましたし、単純に嬉しかったです。坂本さん、情報網すごいですからね、知らないことないですからね。何でもばれちゃうからね(笑)。

坂本:立ち位置上、フライミーに必然的に情報は集まってきちゃうんで。鈴木さんがされたような、流通をデザインして、ブランディングしていくっていうのはものすごく重要なことだと思っていて、フライミー創業時からその重要性をブランドやメーカーとずっと話し続けているんですけど、理解できる、さらに実行できるブランドはまずいない。フリッツのやり方はドラスティックかもしれないけど、非常に分かってるなと思って見てました。その前のフリッツの流通は失礼ですけど、ひどかったですよね。ブランドじゃない。だからどういう人があの状況を改革したのか結構興味があって、僕なりに背景を業界の人に聞いていたんですよね。

 

お会いする前、僕の中で業界の評判だけで推察するに、鈴木さんは結構ドライで、ある意味ちょっと頭の固い人なのかなと思っていたけど、いい意味で裏切られました。僕の鈴木さんへの印象はそれこそ「愛」の人ですよね。柔軟だし。フリッツ・ハンセンというブランドに対する、とてつもない「愛」がある。

 

こんなこと言うとなんですけど、「なんとかジャパン」みたいないわゆる海外ブランドの日本法人の代表者って、プロ経営者みたいな人や単純に語学が堪能みたいな理由で代表になっている人が多い印象があって、ブランドに対する愛を感じることが少ないんですよ。偏見かもしれないけど。なのに鈴木さんときたら、ブランド愛が異様に強いだけでなく、英語が話せない(笑)。そういう鈴木さんのような人に、日本の代表を任せるフリッツ・ハンセンという会社が面白いし、素敵ですよね。

 

ちょっと話ずれますけど、数年前にフリッツ・ハンセン創業150年記念の展覧会があって、鈴木さんにアテンドされながら見てて、ちょっと面白い椅子とかあって「これは?」とか聞くと、ことごとく「私物です」って。私物展覧会(笑)。もちろん他も素晴らしい展示で、展示されていた年表をフライミーに譲っていただいて本社に展示していますけど、なんというか、あの展覧会もブランド愛を感じるものでした。

フリッツ・ハンセンに入社する前からコレクターだったんですか?

鈴木:そうなんですよ。僕一応、大学で建築を学んでたんですけど、そのときに建物よりもどっちかっていうとインテリアの方が興味あって、そのときにちょうどミッドセンチュリーブームも来てて、最初はフリッツ・ハンセンではなくてイームズから入ったんですけど。イームズも目黒通りで買ったりして。その直後に北欧のデザインに出会って、そのときに一番好きだったのがヤコブセンで。そこからヤコブセンを集めるようになって、今も家には椅子が40脚以上はあるんですけど、半分以上がヤコブセンで。そのくらい好きなんです。20年以上コレクターです。

 

坂本:そしたら転職のチャンスが来たと。

 

鈴木:僕もうフリッツ・ハンセン大好きだったんで。その前職に在籍していた時にそういうお話をいただいて、それがフリッツ・ハンセンって知ったときは、よく言うんですけど、大好きなアイドルと結婚するくらいの覚悟で、本当にいいんだろうかと。本当に一緒になっちゃっていいのか、そんな思いだったんです。こんなことはなかなかないなと思って、もうものすごく嬉しかったです。

FLYMEeは売れるプロダクトが他社と違う

FLYMEeで販売を開始してからの感想は?

鈴木:実感としては、フライミーさんに売り上げ的にもすごく作っていただいて伸びたっていうのはあるんですけど、それ以外のところで言うと、さっきもお話ししましたが、まず売れるものの特徴が変わっている。我々の売れ筋だけではなくて、これも売れるんだっていうものが売れるっていう。他店とは違う動き方をするのがすごく面白かったですね。つまりこれまで我々がアプローチできていなかった方が、我々のことを知ってくれて買ってくれてるんだなっていうのをすごく感じました。

 

僕らのブランドって、そもそも僕らの商品を知っていて、何ならデザイナーのことも知っていてっていう、そういう予備知識を持っている方が購入してくれているという認識でいたんです。でもきっとFLYMEeで購入する方は、まず家具を買おうとして入ってきているので、僕らを事前認知しているかどうかは関係なくて、そこから入ってきていない。単純に家具を買おうとしていて、結果として僕らの家具を選んで買ってくれているんだと思うんですよ。多分そうなんだろうなっていう売上構成だったりするので。それがすごく面白いなって思いましたし、僕らも広げたいのは、まさにそういった層でもあるので。知っている人だけに買ってもらってたらいいやっていうわけではなくて、みんなにフリッツ・ハンセンを知ってもらいたいし、選んでもらいたい。まさにそういう分母の拡大みたいなところをFLYMEeがやってくれていると感じています。

 

坂本:そういう設計とサービスデザインを意図して創業からやっているんで、そう言っていただけるのはうれしいです。FLYMEeで取り扱いを始める時に「家具だけでなく、照明やアクセサリーも含めてライフスタイルブランドという見せ方をしたい」「アルネ・ヤコブセン以外にも才能あるデザイナーと取り組んでいることを知ってほしい」とおっしゃっていたのが印象に残っています。実店舗だけではブランドの見せ方に限界があるのかもと。

 

鈴木:そうですね。まず日本は家具店が不足していると思うんです。我々は、少ない店舗の中から、さらにプレミアムな家具を販売できる店と取り組まないといけなくて。昔のような大型家具店の時代は終わって店舗が小型化してきていることもあって、ブランドとしての見せ方が難しくなっています。それでも取り扱いをする店舗には、家具だけじゃなくて照明、アクセサリー、最近はアウトドアも入っちゃったんですけど、それらの展示をマストにしています。そこまでやらないと世界観が作れない。フリッツ・ハンセンってどういうブランドかと聞いたときに、ヤコブセンの名作を作ってる会社だよね、ではなくて、あの素晴らしいライフスタイルブランドだねって言われたいんです。

坂本:ECって、実店舗では見逃されがちな商品をフラットな構造で発見しやすい利点があるとは思います。ECで見て初めて意匠の美しさに気づくことも多い。ECの強みは全体を俯瞰できることも一つあり、実店舗ではできない世界観の表現はできるとは思います。もちろん、そのためにはサイトデザインにも工夫が必要ですけどね。ECであれば何でもいいわけではなくて。世界観って、空間として表現するっていうのも一つなんだけど、プロダクトにフォーカスした形で、フラットに俯瞰してその世界観を見せるっていうのも、違うアプローチとしてあって、その両輪がないと、なかなか表現したいすべての価値に気づいてもらえないというところはあると思います。

 

鈴木:おっしゃる通りですね。結局違いもあるんですけど、両方ちゃんとしてないと、認知の良い拡大っていうのはできないし。

 

坂本:リアルとECがバッティングするとか食い合うっていうことではなくて、実はそれは相互補完で、結局お互い送客し合ってるっていうか、認知をどう的確にブランドを保ちながら広げるかっていう。まあただECの側面だけを言えば、そこの難易度は多分この10年で桁違いに上がっているのはあるんですけどね。一番大事なのは、近視眼的に目の前のお客さんを取り合ってるような感覚の中で物事を捉えるのではなくて、中長期で捉えないと、もうどうしようもないよねっていう話ですよね。

 

鈴木:本当そうなんですよ。僕らがまず最初にやったのは、ちゃんと汗かいたところが売り上げを取れるっていう、正当な戦いの場を作るっていうことなので。そうするとみんな不安を取り除かれるから、投資もしてくれるし、頑張ってくれると思うんです。本来はそうやってちゃんとしていれば、リアルで見てECで買う人もいれば、ECで見てリアルで買う人もたぶん同じぐらいの割合でいるので、結果、食い合ってないどころかパイは広がっているし。その事実にもっと業界は目を向けるべきだと思います。

FLYMEeは“ゲームチェンジャー”

今までのお話は、toC(リテール)についてだと思いますが、toB(コントラクト)に関しても感想や意見はありますか?

鈴木:toBに関して言うと、我々みたいなプレミアムでインターナショナルなブランドを販売できてる実力のある会社さんってそんなにないのかなと個人的には思っていて。参入障壁がかなり高いんだろうなとは思っていて、新規で入ってこれるところがまずなかなかなく。そういう意味で固まっちゃってる業界なんで、なんかこう独特な空気感があるというか。そこにフライミーさんが入ってきてくれたことで、今そこの空気感が変わろうとしてると思うんですよね。

 

よく言うんですけど、ゲームチェンジャーなんですよ、特にtoBの方ではもう完全に。フライミーさんがまさにゲームチェンジャーとなって、toCのみならず、これからのtoBの流通までいろいろと変わるんじゃないかなとめちゃくちゃ期待しています。すごくキーマンなんで、まだまだそれが今これから動いているところなので、この後どうなっていくのかっていうのは本当に楽しみなところですけど、確実にそこのリーダーになってくれる存在だとは思うし。まだまだいろいろ課題もあるのかもしれないですけど、ここからがすごく楽しみです。

 

坂本:リテール向けのECプラットフォームとコントラクト(toB)って無関係のようで、実はものすごく関係があって、ヨーロッパや北米などグローバルで見てもそれは自明ですからね。コントラクトこそ、今までのマーケットから変わっていくのはある程度必然だとは思います。ヨーロッパのブランドとか本国から招待されて、向こうの本社や工場に行くと、デジタル素材やウェブ開発についての意見を求められたりしますが、コントラクトにおいてはうちのようなプラットフォーマーと組まないと話にならない、みたいな考えのブランドは、かなり前から実は多いと思います。

 

鈴木:あと僕が感じている課題感で言うと、toBはちゃんとブランドというものを理解して、家具という業界を俯瞰して見る人っていうのがもっとたくさん出てこないと。日本の家具業界ってすごく洗脳教育されちゃってますよね。ブランドの位置づけとかも認知のされ方にも違和感がある。「愛」がある人がもっとブランド側、業界側に増えていかないと、ビジネスを杓子定規に進めていくだけでは、ブランドの方向性が見失われてしまうことがあると思います。特にプレミアムなブランドには、ものを愛する人が必要で。愛がなければブランドが違う方向に進んでしまって、結果的に売上にも影響が出かねない。むしろ、ものへの愛があるからこそ独自のアイディアを持つような人と一緒に、新しい展開を作りたい。そうしないと日本の住環境っていうのが面白くならないと思います。

FLYMEeの中の一番、ブランドとしての一番を目指して

これからの話を聞きたくて。二社の関係を、これからどう思い描いているのか。坂本社長が今いらっしゃるので、鈴木さんから何か要望があれば。

鈴木:そうですね、それはいつもお伝えしているんですけど、一番になりたいっていう。僕らのブランドがFLYMEeの中で一番の存在でありたいし、それに家具ブランドとしても一番でありたいっていうのが、ありますね。一番って売り上げのみならず、何か知ってる家具ブランドある?って聞いたらフリッツ・ハンセンってまず出てくるみたいな、それが僕の夢であり目標でもあるんです。今はまだそうではないと思っていて。

 

坂本:セブンチェアとかプロダクトの認知じゃなくて、フリッツ・ハンセンというブランドの認知度を上げていくというところにすごく注力されているっていう。

 

鈴木:そういうことです。そうなんです、僕らなんか、ある意味すごい羨ましがられることなんですけど、セブンチェアって言ったらみんな知ってるし、なんならあの形だったら見たことあるって人が日本人はめちゃくちゃ多い。それって実はすごい、すごいことなんですけど、その椅子がフリッツ・ハンセンって紐づいてる人が少ないっていうのはすごく課題なんです。

 

お隣の韓国だと、セブンチェアを見せると「フリッツ・ハンセンの椅子だね」って言われるんですよ。セブンチェアというプロダクトの認知度よりも、ブランド認知度のほうがちゃんと高い。そうなりたいなと思っています。

 

坂本:それでもフリッツさんの場合は、この業界の中でブランドの知名度は高いほうですよね。僕でも学生ぐらいの段階でフリッツ・ハンセンは認識してますもん。エッグチェアとかスワンチェアとともに。

 

鈴木:坂本さんみたいに若い時から興味ある人、好きで買ってる人とか、業界内認知度は高いのかもしれないですけど、僕の認識としては、ブランド認知は一般的にはすごく低いというふうに思うんで。それが課題だし、それをどうにかしたいってずっと思ってやっているんですけど、よく坂本さんがおっしゃるこの業界の「民主化」って話は、僕のテーマだったりもして、この業界に知られている存在だからすごいではなくて、やっぱりみんな知っててようやくすごいだと思うんで、それに早くなりたいって思ってるし、現状そうなってないと思うので。そういう中で、やっぱり売り方っていう面でも変えていかないと、絶対に一般の方に認知されるブランドになっていかない。そこの一つとして絶対重要なのはフライミーさんだと思っていて、僕らがアプローチできていない人に知ってもらうきっかけになるっていう。

 

坂本:僕もかつて学生の時、ファッションから入っている方ですが、ファッションブランド、衣の世界に比べて家具・インテリアのブランドなんて世の中を俯瞰すれば誰も知らないですよね。それを勘違いしないようにしないといけない。

 

鈴木:本当に、本当にそれはそう思うし、こっち側が結構勘違いしちゃってる人が多いのかもしれない。そこはちゃんとしとかないとなっていう。

 

坂本:そこの勘違い感に業界全体がやっぱり少しずつ気づいて変わっていかないと、いずれ自ずと必ず淘汰されますよね。時代は変わってますからね。

 

鈴木:そうですね。本当にそう思います。

お二人の思想が合うんだなってよくわかった対談でした。お互いにきちんと情熱を持ち合っているから響きあうのだなと。

鈴木:思いを持ってるかどうかって大きな違いだと思っていて。持ってる人が少ないように感じるから。

 

坂本:残念ながらそうかもしれませんね。鈴木さんみたいな、こういう気持ち、というか色のある人が少ない。もっと色があるほうが良い業界だと思うんですけどね。

 

鈴木:強い気持ちがないとできないことがありますよね。何かを成し遂げるために「嫌われる覚悟を持とう」と言っても、実際には嫌われたくないからできない。少なからず思いを持ってる人はもう何人かいると思うんですけど、動こうとしないこともあると思う。ECの整備なんて、本当に最たる例だと思います。みんな本当はどうしたらよいかなんてわかってる。でも、やらない。本当にやりきる気持ちを持たないとできないんですよ。

 

坂本:今日はいつもの鈴木さんの感じで、ざっくばらんにストレートに話していただけて、とても楽しかったです。

 

鈴木:こちらこそ光栄です。ありがとうございました。僕らを扱っている販売店さんって、本当にみんなフリッツ愛があるんですよ。僕が学生のころから大好きでって話をすると、急にわくわくしてくれるような感じで。ちゃんとこっち側、ブランド側にいる僕たちが、愛で負けちゃいけないなと思ってるんです。だからこそビジネスとしてちゃんと成り立っていくとも思ってる。

 

坂本:その気持ち、わかります。僕もちゃんとブランドに対して、真剣に向き合ってる人、逃げない人と仕事がしたいんです。鈴木さんは少し先の未来とか、業界全体を見据えて自分たち以外のところまで意識を持って、自分たちが「こうありたい」って真剣に考えてるからこそ厳しめに聞こえるだけで、すごくまっとうな事しか言ってないと思います。単純にブランドのエゴで「こうしたい」っていう、何ていうんですかね、視野が狭いというか自己中心的な発想からきている見解じゃないですし。

 

仕事って、まあ何事もそうかもしれないですけど、自己が目的化したり、自意識があればあるほど結果出ないし、やっぱりある程度のレベルを超えちゃったら、最終的に利他の領域っていうかライトワーカーにならないと突き抜けないというか、結局、人も会社も同じようなものですよね。

Profile

鈴木利昌 Toshimasa Suzuki

フリッツ・ハンセン ジャパン代表

1981年生まれ 愛知県出身。 大学で建築学科を卒業し、リフォーム業界での経験を経て、2008年にインテリア業界に入り、約8年間ベビー用品の営業に携わる。 2016年にフリッツ・ハンセンに入社し、7年でリテールの売上を199%成長させた。 2023年7月1日にフリッツ・ハンセン ジャパン代表に就任。

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