#01

業界の慣習を脱して、
あるべき小売の未来へ進もう

株式会社カーフ

代表 島田雄一さん / ディレクター 島田幾子さん

東京を代表するインテリアショップ『karf』の創業者、島田雄一さん・島田幾子さんに、家具業界やFLYMEeについて話を聞きました。聞き手は、フライミー代表の坂本如矢が務めます。(インタビュアー 竹田芳幸、ライター 石川歩)

インディペンデントな2社は、出会うべくして出会った

ーもともとFLYMEeにどんな印象を持っていましたか?

karf 島田雄一(以下、雄一):周りが早くからFLYMEeと取引していたので、以前からFLYMEeのことは知っていました。目黒通りのインテリアショップコミュニティにいた頃はポータルサイトからの声がけも多かったのですが、熱量をもって長く続くケースはほとんどありませんでした。FLYMEeとの接点はありませんでしたが、いろんなサイトが出ては消える中で、FLYMEeは徐々に検索サイトの上位に表示されるようになって、メディアに出るFLYMEe提供の家具写真も増えていって、世の中に広く知られていくのを見ていました。

 

実は、以前から広松木工の廣松(嘉明)社長に「FLYMEeで販売しないの?」と言われていたんです。たまたま2024年1月に福岡県大川市の展示会に行った時に、廣松さんから「フライミーの社長が来ているから紹介しようか」と言われて、お会いするタイミングがきたなと感じました。

 

実際に話してみたら、坂本さんは初めて会った感じがしなくて、気負わずにいられる方で。自分でも驚くのですが、初対面で4時間くらい話しましたよね。勝手な固定概念でIT系の方は自分とは違うタイプで苦手だと思っていたけれど、坂本さんは僕たちと近い感覚をもった方だと感じて新鮮でした。

 

karf 島田幾子(以下、幾子):珍しいんですよ。初めて会った方と、そんなふうに盛り上がることはあまりないですから。

 

フライミー 坂本如矢(以下、坂本):僕自身、世の中で言われるIT系では全くないですけどね。創業以来、色々と考えもあってメディアへの顔出しは避けているので、勝手なイメージで捉えられている部分はあるかもしれません。特に近年は、新規取り扱いをこちらからお願いすることは少なくなっていたこともありますし。

 

karfについては、いずれは接点をもつことになるかなとは思いつつも、いつどのように知り合うかは大事だなと思っていたので、今までお声がけしていませんでした。その日は突然訪れたわけですが、お会いするまでは、業界内の伝聞もあって、なんとなく気難しそうなイメージを持っていました。でも実際に話してみたら、お人柄だけでなく考え方もとても柔軟で、そこにとにかく驚きました。なかなか島田さんの世代と立場でそういう方はいないですよね。

 

雄一:あまり人前に出ないタイプなので、展示会や業界の会合もほとんど行きません。業界内で威厳のある存在のように見られているかもしれないけれど、イメージが勝手に独り歩きしているのだと思います。昔から、ひたむきに強い思いを持ってkarfというブランドを続けるためにやってきました。今振り返れば、その背中を見ていた方々がリスペクトを抱いてくれる状況になったのかなと思います。

 

坂本:人との付き合い方や、ブランドに対する向き合い方は、お互いに似ていますよね。お会いしたあのパーティーのような場も事情があって、たまたま伺ったのですが、創業以来13年目にして実は初めてのことで、まさかそんな場所でお会いするとはっていう。一番僕たちっぽくない場所かもしれません。出会いって不思議ですよね。

ーkarfは2024年7月末に目黒から代官山に移転しました。移転の背景にはどんな思いがあるのですか?

雄一:目黒通りは“家具通り”と呼ばれるエリアで、ミッドセンチュリー家具ブームの頃からずっと、karfにも多くのお客様が訪ねてきてくれました。僕たちは、いつの間にかその日常に慣れてしまって。本来であれば、目黒通りではなく「karf」を目指して訪れてくれるお客様に向けて、自分たちの家具をどう提案しようかと考えるべきだったのに、ルーティンにバイアスがかかって、日常で繰り返す行動に別の可能性を見出さなくなっていた。

 

幾子:私はずっとショップディスプレイを担当してきたのですが、目黒にいた時は、商品として家具をいかにたくさん見てもらうかという視点だったように思います。この家具はこんな風に使えますよとか、シーンを変えるとこうなりますよとか、そういった提案だったり。
代官山の店舗では、より自分たちの考えや価値観、美意識なんかを濃密に伝えられる気がしていて、自分たちの中にあるものを発信する場所という視点で店舗を見ています。家具探しを目的として訪れる方が多い目黒通りと、LOG ROAD DAIKANYAMAはまったく違う。わざわざ足を運んでくれるお客様に、何を感じてもらいたいのか。ショップとしての在り方を変えていかないといけないし、変えていきたいですね。

 

雄一:これから10年20年とkarfが続いていくためには、オリジナルブランドで店舗を構成することが大切だと思っています。目黒通りにいた頃は、編集型のインテリアショップの中でオリジナルもやっているという状況でした。もちろんオリジナルブランドの展開に取り組んでいたけれど、遅々として進まない状況があったのは事実です。ここで退路を断つ意味も込めて、目黒を離れる決意をしました。過去を振り返ると、自分なりの意識改革や転換期には場所を変えてきた経緯があるんです。様々な物件を見てまわるうちに、呼ばれるようにたどり着いたのがこの場所です。

 

坂本:「場所に呼ばれた」というのは、どんな感覚ですか?

 

雄一:karfが新店舗を構えることで、LOG ROAD DAIKANYAMAという場所を活性化できるのではないかと感じたんです。インディペンデントなメンタリティを持つ僕らだからこそ、この場所が本来持っている、いわば素材に息吹を吹き込むようなことができるのではないかと。目黒通りに店を構えた時は、周辺にどんどん家具屋が増えて、家具ストリートになっていった。いま改めて、場所にエネルギーを注いでいくということに面白さを感じています。大きな資本が入っているショッピングセンターのような複合施設で商いをするのではなくてね。

 

坂本:その感覚には共感します。フライミーはインターネットの世界ではかなり珍しい、会社経営上も、サービスとしてもインディペンデントな企業です。うちのような感性価値に関わる事業の場合、自社の提供価値を最大化しようとすると、経済合理性を軸に物事を考えても難しい部分があるし、インディペンデントという要素は重要だと思いますね。もちろん容易なことではないですが。

ーkarfとFLYMEeの共通項として、「インディペンデントである」というキーワードが出てきました。

坂本:家具インテリアは感性が大きく関わる業界ですが、本質的にこだわりや自分なりの感性を持ってビジネスと向き合っている人は意外と少ない気がしています。そんな中、島田さんも僕たちも「こうありたい」と強く意識してこだわっている部分がある。karfとはこの意識が噛み合っているのだと思います。

 

FLYMEeは表面的にはこだわっているように見せていないし、僕もあえて会社の代表としてメディアに出て自ら語るようなことはしていません。でも、しつこくしつこく、こだわりを持って取り組んできた結果、今の立ち位置を確立できたと思うし、自分たちで社会的な存在意義を感じられるまでになってきた。繊細で地道なこだわりの積み上げによって築いた世界観の上に今がある、みたいなところは共通項だと思いますね。

 

雄一:そうですね。業界の中での立ち位置や表現方法は違うけれど、karfとFLYMEeはベースの考え方が非常に近いと感じます。

マイナーの中のメジャーを目指す

 

坂本:ところでkarfというか、島田さんのものづくりに対する思いのベースには、どんなことがありますか?

 

雄一:振り返ると、大学卒業後、自分が一生続けられる仕事とは何かを考えたことから始まったんです。最初に興味を持ったのが家具工房の家具づくりで。自分で家具づくりのすべてをオーガナイズしていくことに魅力を感じたんですね。当時はとにかく情報が欲しくて、イギリスでジョージアンからビクトリアンアンティークをやみくもに見て回って、その後バウハウス、ミッドセンチュリーと深堀りをしました。そのうち商材として扱うようになり、自分で修復作業をすることで1800年代以降のクラフトマンシップを感じてきました。「感じた」というより「感じさせてもらった」というほうが正しいかな。

 

例えば、1900年のビクトリアンアンティークであれば120年の時を経て、いま自分の前に存在しているわけです。「この家具が現代まで生き残ってきた魅力の源は何か?」とモノとの対話をしていく中で、自分なりの理解が育まれていったんです。karfのベースには、この経験を自分たちが送り出す家具にも込めて表現していきたいという思いがあります。

 

僕が思う良い家具とはなにかを例えるなら、粗大ごみの日に誰かがぽんと出したとしても、別の誰かが集荷される前に拾って帰ってくれる家具だということなんですね。少なくとも、自分たちの家具が粗大ごみに出されて、そのまま集荷まで残っているものであってはならない。さらに言えば、長く大切に使われて、将来はヴィンテージ家具になってほしい。これは家具を生業にして以来、変わらずにある思いです。

 

坂本:先日、「近年、小売のあり方が大きく変わりすぎていて、今までの経験的な感覚では、もはや最近のマーケットはわからなくなってきている」というお話をされていました。業界を取り巻く環境が急速に変化を続ける中で、karfとして今後どういうポジショニングを狙ってものづくりをしたいと考えていらっしゃいますか。

 

雄一:企業規模の拡大や、ブランドをメジャー化する思考をベースに置くのは違うと感じています。世の中には優れた商品がたくさんあるから、その中でオリジナル家具を出し続けることは大きなチャレンジだし、確たる自信を持って送り出すべきです。だから、karfは拡大して存続するというよりも自分たちが信じるものをコツコツと送り出して、少しずつファンが集まり、気がついたら10、20年経っていたという在り方がいい。

 

今の時代は、自分たちでメジャーかマイナーか選べずに両極に転がっていく可能性もありますよね。同じポジションを保ち続けるのは難しいと思いますが、僕たちはマイナーの中のメジャーで在り続けることを狙いたいんです。

坂本:マイナーの中のメジャーっていうのは良くわかります。今回、FLYMEeで扱わせてもらうことになって改めてkarfの商品群を見ていくと、マーケットに合っているなと感じるんですよね。厳密な原価計算に基づいて、マーケットが見えている上で、売れるように商品化されているなと。もっと言えば、メジャーとして売れるものを作りたいわけじゃないけど、マイナーとして売れるものを作りたいというか。そこの島田さんのこだわりのバランスは感じますね。マイナーでかっこいいブランドでいたい、でもメジャーになるのはちょっと違うみたいな。島田さんはクリエイティブとビジネスのバランスをしっかり考えている方で、業界では珍しいと思います。

 

幾子:そこをわかっていただけるのはすごく嬉しい。

 

雄一:常に消費者側の立場に立っている感覚はあります。僕たちはハイエンドの家具を作っているわけではないから、自分なりにいわゆる玄人目線で見たときに「良い素材で良い仕上がりにしてるな」「このプライスは安いわけではないけど、でもこの品質ならリーズナブルだな」と思えるかどうか。その視点はとても大切にしています。

 

この姿勢を貫くかぎり大量に展開するのは難しいんですね。だから、マイナーの中のメジャーを目指すということになる。

 

坂本:僕の中では、そういったマイナーの価値がわかる人に届いていくところから、業界の気運が少しずつ変わっていくといいなと思います。そこはFLYMEeしかできない役割だとも僭越ながら思っていますし。

 

そういえば初対面の時に感じたことなのですが、島田さんはリテラシーは当然高いのに、全くそういう出力をしないですよね。僕はこの業界の課題点として、これからお客様になりうる層に対して、ペダンティックに「建築とかデザインについてのリテラシーって君たちある?」といった自分たちの価値基準だけが正しいかのような出力をする傾向があるように思います。届けようとする側が何か勘違いしているというか、既得権益的な発想がある気がしてならないんですよね。家具を選ぶのにリテラシーは必須要件ではないし、感性的、直感的な選び方が間違っているなんてことは当然ない。知識とセンスはイコールじゃないし。業界側がこの姿勢でいると、せっかく家具やインテリアに興味をもっても自然な感覚をつぶされて、いつまでもマイナーな価値含め、面白さに気づいてもらえない。

ーkarfとFLYMEeの取り組みの核心部分に触れる話ですね。

坂本:僕は「民主化」と呼んでいますが、FLYMEeは意図的に運営側のリテラシーがどのレベルにあるのか分からない際どいラインを攻めています。どういう考えでAとBの商品を共存させて、どうしてこの表現になっているのか、実のところかなりデリケートに設計していて、それはもう確信犯的にやっています。もちろんご理解いただけない層もいらっしゃるんですけども。

 

FLYMEeは高級品を扱う富裕層向けサービスと言われることがありますが、決してそうではない。あくまで万人に向けたサービスとして作っていますし、原点は20代の過去の自分に向けて作っているサービスです。言ってしまえばリテラシーの高いMDとかっこいいUI/UXのサイトを作るのはそんなに難しくないですが、それでは民主化できませんし、世の中が変わっていかないですよね。FLYMEeはあえて民主化していける絶妙なバランスを探っています。

 

karfがやっていることも、単にかっこいいものを目指すのではなく、市場の中でkarfの家具を元に、発見的価値というか、興味を持ったり、住に対して考え方が変わるきっかけになるようなプロダクトを作ろうとしているのではないかと思ったりします。僕自身が、若い時に意匠美で好きな家具を買って、後からデザイナーの名前や背景を知ったタイプということもあるかもしれませんが、お客様には「この家具の造形美が好き」「この家具を部屋に置いてみたい」といった自然な感覚から家具に興味を持ってほしいと思っています。もちろん背景知識から入ってもいいわけですが、それだけでは、より多くの人には価値は届いていかないですよね。興味をもつきっかけやストーリーを最大化することが重要だと思います。

 

雄一:FLYMEeのポジショニングの妙ですよね。FLYMEeで気になる照明と他のブランドと見比べるうちに、デザインはAが好きだけど、Bは価格的にこなれているとわかってくる。そうやってお客さんは、照明ひとつとっても実は多様なブランドがあり、インテリアは奥行きのある世界だと気づいていく。FLYMEeは家具に関心を持つきっかけになると感じています。FLYMEeを見ていると、家具好きが溢れ出ないくらいの、ほどよい姿勢を保つように配慮しているのを感じますね。

 

坂本:一見何の関係もないようなことを言うようですが、そういったことを感じていただけるのは、かなり真面目に愚直にやっているからだと思います。泥臭いことを積み上げていくというか。そこは圧倒的にやってきたという自負はあります。

 

雄一:伝わっていますよ。例えば、家具は売った後が大変じゃないですか。販売側は、配達や使用中に起きる諸問題に対応する責務がありますが、プラットフォーマーと呼ばれる人たちは、優れた仕組みを作っても、販売の現場で泥臭く取り組まないといけない部分まで想像を働かせていないことが多いです。でも、FLYMEeは、販売した後にどのように届けるのか、その後のアフターフォローはどのようにするかなど、現場の作業までしっかり目配りをしていますよね。

 

坂本:そう言っていただけるとありがたいですが、課題は多いです。販売から物流、納品後の対応までをパッケージとして見た時に、ここ数年で大型物流がとんでもなく退化していたりして、企業努力し続けていても、サービスとしてクオリティの維持が難しくなっています。顧客第一主義であることはサービスとして当然なのですが、そんな状況下で、お客様の視点だけにフォーカスして、現場で起きる問題をメーカー・ブランド側に押し付けていては我々の介在価値はない、というか業界自体がサスティナブルではなくなります。自社の努力だけではどうしようもない事情があっても、お客様はその状況を知らないですから、当社が批判を受ける場合もあります。ここはサービスとして難しい部分ですし、社会課題として壮大な大型物流問題が絡んでいるので、一筋縄にはいかないですが、今後も少しずつでも改善していかなくてはならない最重要ポイントだと認識しています。

FLYMEeでの取り扱いは、21世紀型の小売に変わるスタートライン

 

坂本:話は変わりますが、僕はもともとファッションが好きで、学生時代はよく表参道や青山界隈を徘徊していたんです。そんな中で、たまたまインテリアショップに入って欲しい家具に出会ったりとかして、インテリアに興味を持った人間なんですが、かつての僕はあの界隈を見て回るだけでも何とも言えない高揚感を感じていたし、ショッピング体験そのものが面白かったんですよね。そういうことが興味のきっかけを作っていくと思うんですが、現在の小売店の状況やこれからの実店舗のあり方を島田さんはどう考えていらっしゃいますか。

 

雄一:生産効率を優先するあまり、奥行きのある店が少なくなりましたね。焼き増ししやすい店舗作りが主流になっている。僕たちはオリジナル家具のアイテム数も多くないし、派手に主張する商品も少ないので、店舗はパーソナリティを補完する意味で劇場として捉えています。ものがものとして引き立つ環境であることに、エネルギーを注いできたんです。そういう仕事を彼女がずっとしてきてくれた。

 

幾子:私は見せる担当だったので。

 

雄一:かつては劇場型店舗の個性がおもしろくて、店舗を見て回ることで様々な刺激を受けてきたと思うのですが、今は店舗を作っていくエネルギーがトーンダウンしている時代だと感じます。

 

幾子:だからこそ、私たちにとってリアルな店舗の役割は大きいんです。karfの店舗を無くしてはいけない。FLYMEeを見て、店舗に行ってみようと思ってくれたお客様の期待を裏切らない店であるために頑張らないと。

ーkarfは目黒から代官山に移転したタイミングで、FLYMEeでも販売を開始しました。FLYMEeと取り組む理由は?

雄一:一番は、坂本さんとウマが合ったことですね。僕は、坂本さんの人柄だからオープンに話せるし、気負わずに知りたかったことを聞くことができます。

 

幾子:今回のインタビューにあたって改めて考えたのですが、FLYMEeがどうこうというよりも坂本さんの話になっちゃうんですよね。でも、突き詰めればどんな会社も、創業者の思いや熱量が社員に伝わって会社のオリジナルカラーに染まっていくのだと思います。

 

雄一:代官山に移転してから自分にもスタッフにも「20世紀型ビジネスから21世紀型に変わろう」と言い聞かせているのですが、FLYMEeでの販売は21世紀型へシフトするひとつのきっかけだと思っています。

 

コロナ禍で知人から「FLYMEe上に存在していないと、業界に存在していないことになるよ」と言われたんですよね。実は言われる前から自分でなんとなく感じていたことだったんですが。インディペンデントであるということは外部への依存を最小限に抑えるということでもあり、自分たちから取り扱いに動き出すよりも、必要な時期がきたら自然な流れの中で出会うものだと思っていました。プラットフォームで販売することで、自分たちの手からブランドコントロールが離れていくことの不安もありました。それに、僕の勝手な固定概念で、karfの家具はFLYMEeでは売れないと決めつけていたんです。

 

幾子:世代もあるかもしれませんが、プラットフォームに対してアレルギー反応があったかもしれません。ただ、時代の変化は感じていたし、プラットフォームは無視できない存在になっていると思っていました。インテリアに興味がある方は認知してくれていても、引っ越して初めてインテリアを考える方も多いですよね。そういう方たちはまだ、karfを知りません。インテリアで検索して上位に表示されているFLYMEeにkarfが載っていないというのは、購入検討の範囲外になってしまう懸念もありました。

坂本:インターネットの世界はこの10年で大きく変わりましたし、この数年でも大きく変わりました。ブランドやショップが一社単位でできることには限りがあります。それに、この業界でブランドとして認知されているところはほぼありません。そこがファッションとの大きな違いでもあり、商材として根本的に全く違います。

 

だからこそ、共同体的に中長期視野で取り組む必要がある。もっと業界全体を俯瞰して考える人が増えないと危険だなと思っています。オンラインとリアルは決してバッティングするわけではないし、パイの奪い合いをしているわけではありません。どのように流通をデザインして、ブランディングをして、オンラインとリアルを共存させるかが大事です。FLYMEeをきっかけにブランドを認知してもらうことで、都内だけじゃなく地方も含めて直営店や小売店の来店人数が増えるし、設計やインテリアコーディネーターといったプロの方にも訴求できる。実際にFLYMEeをきっかけとして、日本での流通規模が10倍以上になったブランドもあります。それは、FLYMEeでの販売実績だけでなく、他の販路も軒並み売上が増えたからです。

 

良い椅子を買おうと思って10万円を握りしめて買い物に行ったけど、どこで何が売っているのかわからないから意中のものに出会えない、だから手近なところで2万円の椅子を買う。すると本来入ってくるはずだった8万円は業界に入ってこない、というような状況が問題なんです。

 

これではものづくりは維持できない、というか発展しない。別にきれいごとを言うわけじゃなくて、FLYMEeをきっかけに認知した結果、他で売れてもいい。価値に気づいてもらって、ものが売れていく事実が重なることで市場規模が増大していくことが重要で、それがフライミーにとっても中長期的に利益追求になると考えています。

 

探している人に良い出会いがあって、自分の生活に取り入れて「あれ、住って投資価値があるな」みたいな気づきになる。その体験が広がっていくことが、少しずつ文化が変わっていくうねりになる。そういったことを中長期的に考えないと未来がないと思っていますし、そこが僕たちにしかできない、僕たちの役目だと思っています。

 

雄一:自分たちが変わっていきたいと思っている中で、小売の変革期に劣化するのではなく、大局を見ていこうという坂本さんの話は腑に落ちる部分が多い。自分の考え方は固まっていたのだなと気付かされることもありますし、変化を受け入れる時がきています。今後のことを考えると、FLYMEeとの取引がスタートラインになると考えています。

ーこれからのkarfについて、どんな未来を描いていますか?

雄一:独自性を極めたいですね。進化よりも深化です。ただ、深く潜っていくと間口は広がらないので、そこはFLYMEeなどインターネット上の表現で認知してもらう必要があります。

 

生身の人間である限り、住環境の中に人の手が介在しているものはあったほうがいいと思っています。テクノロジーが進んで家中がモバイルデバイスで動く時代になったとして、みんな本当にそんな暮らしが良いと思っているのかな?僕は時代の変わり目に生まれた人間として、ジョージアン、ビクトリアンアンティークやミッドセンチュリーの家具を見て、学ばせてもらいました。僕たちはこの思いを次の時代に引き継いでいきたい。そのためにはブランドが存続し続ける必要があります。

 

幾子:色々とビジネス的にどう発展させていこうかという考えもありますけども、それよりも突き詰めて言えば、もう家具を楽しみたいと、それに尽きるんです。自分たちはものづくりが好きで、そしてそれを使うことも楽しんでいる。この楽しさを他の方にも伝えたいんです。粗大ごみに出されても拾われて、代々受け継がれていくような家具づくりをもっともっと楽しみたいですね。

 

雄一:フライミーにはこれからも家具に興味を持ってもらう入口として、未来の家具好きを生むためのプラットフォームとして、頑張ってもらいたいです。

Profile

島田雄一 Yuichi Shimada

株式会社カーフ 代表

家具工房にて家具製作を学び、1985年に代官山でオーダー家具「karf(カーフ)」を創業。恵比寿、五反田、目黒の移転を経て、2024年に「karf代官山」をオープンした。2013年には、 つくばにロードサイド型ヴィンテージ家具&カフェ「Blackboard」、2018年にパルクール施設設計&器材設計部門「parkour design labパルクールデザインラボ)」を始動。2022年にインテリア空間とパルクールの世界観を融合したTOOLISM構想を立ち上げ、世界のパルクールシーンから注目されている。趣味はバイク、読書、映画鑑賞。

島田幾子 Ikuko Shimada

株式会社カーフ ディレクター

karf創業時からショップディスプレイを担当し、2013年にオープンしたヴィンテージ家具&カフェ「Blackboardカフェ」のディレクションを手がける。「空間や住まいのあり方が人を形成する」という考えを提唱し、長年インテリアに携わってきた経験に加え、生活者の視点から見た住まいと暮らし、親としての学びや子育て環境への考え方をパーソナルサイト「Good Life Tips」で発信している。2023年には、人気記事から派生した絵本『家具ものがたり』(作:島田幾子、絵:松田奈那子)を出版。 趣味は子どもの環境を応援すること、映画鑑賞、美術鑑賞。

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