目的があって、ルールがある。だから強い、だから面白い。

#05

目的があって、ルールがある。
だから強い、だから面白い。

コピーライター

竹田芳幸さん

株式会社フライミーのコーポレートサイトリニューアルにあたり、プロジェクトメンバーとして参加したコピーライターの竹田芳幸さん。言葉のプロから見たフライミーという会社の独自性と、プロジェクトを通して感じたフライミー社員に対する感想を、フライミー代表の坂本如矢との対話の中で編集後記的にお話しいただきました。(ライター 石川歩)

「代表が顔を出せば、話は早いのですが……」

 

竹田芳幸(以下、竹田):今回は、コピーライターとして、コーポレートサイトと採用サイト、動画の中で使用する言葉の整理や再構築を担当させてもらいました。コピーライターという仕事に馴染みのない方も多いと思うんですが、こういった企業が用いる言葉やブランドを整理したり、TVCMなんかの広告の言葉や企画を考えたりする仕事をしています。

 

このプロジェクトで声をかけてもらう前から、サービスとしての「FLYMEe」のことは知っていたのですが、ただ漠然と「家具のEC」という程度の認知だったんです。坂本さんと最初の打ち合わせをする前は「今のサイトが無機質だから、もっと生活スタイルを提案したり、独自の家具コンテンツを前面に押し出していった方がいいですよ」と伝えるつもりでした。

 

フライミー 坂本如矢(以下、坂本):そういう類の話は大抵の方から提案されます(笑)。

 

竹田:会社のことを伝えるには、もっと手触りのあるコンテンツが必要だと思っていたんですよね。でも、坂本さんや社員の皆さんと話すうちに「あ、自分は間違っていたな」と。フライミーの根底にあるのは、あくまでもお客様の感性が主役で、フラットに並んだ家具の中からお客様が自分の感覚で選んでいけることが大切という強い意識でした。この商品が今流行っています、こういうライフスタイルが素敵です、あなたにはこの家具がおすすめです、みたいなことをフライミー側から押し付けることは、本来の目的から離れていってしまう。この話を聞いて、おもしろい会社だなと思いました。

 

そして、今回のプロジェクトの目的はEC事業の成長促進ではなく、事業拡大に伴う採用課題を解決したいということでした。

坂本:誤解のないように言うと、単純に応募者の母数や採用人数を増やしたいということではありません。有難いことに、この10年は新卒中途問わずに多くの方からご応募いただけていて、大手の求人媒体経由だけでなく、コーポレートサイト経由やリファラル採用、僕が良いと思う人に直接お声がけするなど、様々な形で採用しています。会社の情報をほとんど公開していないのに、みんなよくフライミーを見つけてくれたなと思います。

 

課題として感じていたのは、本当に事業の意味を理解して応募いただける母数を増やしたいということと、子会社含めて事業のスピード感がさらに上がってきている中で、これまでとはタイプや特性の違う人も含めて、より質の高い採用、多様性がある採用に変えていかなければいけないということでした。企業や働き方に対して求めるものは人それぞれ違いますから、当社の考え方やどんな人を求めているのかをもっとこちらから発信しないと、より良いマッチングができないと思っていたんです。

 

竹田:この課題を手っ取り早く解決できるのは、坂本さんが表に出ることなんです。「フライミーをとりまく人々」のインタビューで皆さんが話していますが、坂本さんって家具と事業への熱量がめちゃくちゃ高い。無機質な感じがする「FLYMEe」というサービスをやっている人が、やたらと熱量のある人だったっていうこの対比が面白いじゃないですか。

 

でも、坂本さんは表には出ないと決めていた。代表が顔を出すとフライミーに色がついてしまうと言う。徹底していますよね。ビジョンとして「空間創造の社会インフラをつくる」というのを目指しているし、たしかにインフラに色はないから、この考え方は正しいと腑に落ちました。その縛りの中で始まったのがこのプロジェクトだったんです。

竹田:代表の思いを伝えたい、熱量を伝えたい。なのに代表が顔を出さないというのは、制作側からしたら大変なんです。それで、今回は新しい挑戦として、フライミーと付き合いがあって言葉を持っている皆さんの時間をもらって、「フライミーをとりまく人々」というコンテンツを作りました。坂本さんの顔は見えないけれど、周辺の言葉から坂本さんの熱量や輪郭が浮かび上がる企画にしたかったんです。

 

そしてもうひとつ大きかったのは、コーポレートサイトのトップのキャッチフレーズ「解釈に自由を」。明確な理由があってこのスタンスでいるフライミーの姿勢を、最初の印象として理解してもらいたいと考え、これまでなかったキャッチフレーズを開発しました。

求めているのは、“やりたいことがない”人

 

竹田:採用の話でいくと、フライミーが求めている人物像の話が興味深かったです。一般的にベンチャー、スタートアップの企業が求める人材って、やりたいことや野心を持った人だと思うんです。でもフライミーは、やりたいことがない人のほうがいいという。一般的な就活ではやりたいことがない人をネガティブに捉えるので、最初に聞いた時はびっくりしました。

 

ただ、話を聞いていくと「自分がやりたいこと」に固執する人ではなくて、組織や社会に対して「自分はどう貢献できるか」と広い視野で興味を持つ姿勢を重視しているとわかってきた。これは、本質だなと思ったんです。昔かたぎな会社への貢献の強制という意味ではなくて、組織や社会に自発的に貢献しようというモチベーションを持つ人を求めているんですよね。

 

坂本:もちろんやりたいことがあったっていいし、ないからいいわけではないんですが、中途半端なビジョンは柔軟性を阻害する場合もあるし、学生の段階で見えている範囲で決め切ってしまうのはもったいない。自分の適性を冷静に判断できている学生なんて、実際はそんなにいないのではないかと思います。僕自身は学生時代そういうことに結構真剣に向き合ってきた方ではあると思いますし、ビジョンはありましたが、今振り返るとものすごく視野が狭く、浅はかだったなと思います。

 

ただ、新卒を採用するということに対しては、会社として責任が伴います。親御さんが大切に育ててくれて、学校を卒業して、社会人になる一社目って本当に大事だと思っていて。中途採用のメンバーを見ていても、一社目の影響というのがなんだかんだ無意識レベルで強いんですよね。そういう意味でも責任を感じますし、会社として責任を取ろうと思えるまでは、なかなか新卒採用に踏み切れなかったですね。

 

竹田:一社目の影響が強いというのは、たしかに振り返るとそう思いますね。

 

坂本:だから入社後も、どう育成していくかということについては慎重に考えています。間違ったマインドセットが最初に形成されてしまうと、遠回りをさせてしまうことになるので。結局、成長スピードを速める上で重要なことは、本人がまずは目の前のことに柔軟性を持って取り組める素直さ。その延長線上で、適性に合う配置をしてもらって、解像度の高い人に視座を引き上げてもらえる本人の素養です。

 

僕自身の話ですが、学生時代にとんでもなく優秀な先輩方、先生方に可愛がっていただいていたのですが、頻繁に質問攻めして、考え方を修正されたりしながら、今思えば、一気に視座を引き上げてもらいました。それが今の自分のビジネス力においてもベースになっていたりします。誰の近くに行くかって大事ですよね。

 

「地に足つけて目の前のことに真剣に取り組んでいたら、なんか遠くまでいけた。結果的にフライミーに入ってよかった」という環境は作っていきたいし、そう思ってもらいたいなって気持ちはありますね。

 

竹田:だからフライミーの採用は、新卒中途どちらにしても「柔軟性」と「意欲」を持った人がいいんですね。

 

坂本:もともと採用は中途を中心に考えていたんです。事業の成長スピードが速かったので、教育コストの観点からも即戦力が必要でした。そんな中でも、コーポレートサイトを通じて応募してきてくれる学生は昔からいて。8年前(2016年)くらいでしょうか、新卒を少しずつ採用し始めました。すると新卒のよさがわかってきた。新卒はどんな色にも染まっていない柔軟性があって、間違った固定観念や社会経験をアンラーニングするプロセスが必要ない。だから人によってはむしろ教育コストが中途より圧倒的に低いということに気づきました。

 

竹田:時代が変わるスピードが加速しているので、変化できる柔軟性がないとついていけない。ちょっとした成功体験からくる固定観念が成長の妨げになるというのはよくわかります。これだけスピード感がある世の中だと、自分が持っている確固たる軸や哲学を捨てざるを得ない場面もありますよね。

 

坂本:経営者である僕ですら、そうだと思っています。そういった変化に対して、常に自分を客観視し、時にアンラーニングしながら、勉強し続けるってすごく重要だと思うんですが、そういう素養の期待値が高い採用を追求していくと、新卒採用っていいなと。

竹田:柔軟性の捉え方も様々ですよね。柔順に従うのも柔軟性ですが、フライミーの新卒の方たちは、柔軟性に熱量が足し算されている印象があるんです。

 

今回、ムービーのコピーで忘れられないエピソードがありまして。ムービーのトップに「埋もれている価値に光を当てる」というキャッチフレーズを入れているのですが、最初は別のフレーズを置いていました。坂本さんたちと協議して言葉を決めて、動画の編集も終わって最終チェック段階で、プロパーの若手社員から「違う言葉にしたい」と言われたんです。よくあるパターンだと、現場担当者間で合意していたけど、経営陣がNGを出してやり直したいという話です。

 

でも、フライミーは経営陣がOKを出したムービーに対して、若い社員の方から違う意見が出てきた。「私はこれじゃないと思う」という意見が。

竹田:この意見は大切にしなきゃいけないと思って話を聞かせてもらったら、ものすごい熱量で自分が感じた違和感と意見を語ってくれました。単純に社内で意見を言いやすい雰囲気があるから無責任に発言している感じではなくて、会社に対して確固たる意思があって、「フライミーはこんな会社だから、こういう見え方じゃないとダメだ」と建設的な意見を伝えようとしてくれた。なかなか味わったことのない感覚でしたね。社員一人ひとりが、どうしたら会社が良くなるかを考えているんだなと感じました。

 
 

フライミーには、地に足のついたビジョン・ミッション・バリューがある

 

坂本:もちろん全員がそういうレベル感で話せるかどうかって言われると難しいとは思いますが、ああいう意見をちゃんと考えて、強い意志を持って伝えてくれるっていうのは頼もしいですよね。

 

竹田さんがいるクリエイティブの世界も同じだと思いますが、目的芸術的な考え方で、一定の不自由さがある中で本質を抽象化して適応していく力が重要だと思うんです。僕はこの抽象力がビジネスにおいて大事な能力だと思っていて。そのためには、個人に完全に自由を与えるよりも、組織として明確な軸を提示することが必要です。会社が地に足のついたビジョン・ミッション・バリューを策定して各自が自走できる基盤を作ることで、結果として個々の力が発揮されると考えています。

 

竹田:最初に坂本さん自身が入社研修をやると聞いて、びっくりしたんです。会社の理念や行動指針、社員に求めている素養について、詳細に述べられているミッションブックがあることも驚きでしたが、さらにその解説として3日間みっちり代表が話すという会社は聞いたことがない。代表がかける工数にしてはコストが高いと思うんですよね。それだけビジョン・ミッション・バリューの重要度が高いということですか?

 

坂本:そうですね。新入社員だけでなく、時には既存メンバーも含めて話しています。話す内容自体は同じですが、その回に参加するメンバーのバックボーンやレベルに応じて抽象度は変えています。現行のミッションブックは70ページありますが、挿絵もほぼなく、ほとんど文章で埋まっていますし、色んなレベルの読み手に合わせて細かく言語化されています。なので、一読しただけでも、理解できたような気になるんです。でも、実際に読み解けているかというと、そうではない。自分で言うのもなんですが、結構奥が深い内容なんですよ。研修で僕がさらに説明することで、ようやく行間が埋まって、「あ、そういうことだったのか」と腑に落ちる内容だと思います。研修後に感想を聞くと、大体そんな感じですね。

 

竹田:ミッションブックを手渡されるのが一段階として、3日間坂本さんの話を聞くのが二段階目。今回つくったサイトは、ゼロ段階を目指しました。ブックを受け取っていない段階の人でも、フライミーのエッセンスが伝わるようなサイトにしたかった。

 

一般的に考えると、ビジョンやミッションを強く浸透させるほど、個人の意見は弱くなると思うんです。でもフライミーは、強く浸透させているからこそ意見が出てくる。その両立ができているのがすごいなと思ったんです。先ほどのムービーのコピーに対する社員の意見を聞いて、坂本さんはどう思いましたか?

 

坂本:「なるほどね」と思いました。確かにそうかもねって。僕はわりと誰の意見でも納得したら変えるタイプなんですよね。もちろん違うと思えば伝えますが。

 

竹田:経営側には確固たる軸を定める必要があると思っていますが、そこの軸に基づいた自分の意見が絶対に正しいと考えずに、メンバーが新しい意見を出してきたときに、俯瞰して自分が間違っていないかどうか考えて、聞く耳を持つ余白が経営には大事なのかもしれない。

 

坂本:今回意見を出した社員も会社の軸があるから自走して考えられるわけで、そこがないとクリエイティビティは発揮できないですよね。会社の軸を策定するにあたって、どのくらいの抽象度で策定するかは大事だと思います。

坂本:フライミーのビジョン・ミッション・バリューは会社が成長する過程で必要に応じて作ってきた共通言語なので、形骸化された標語ではないんです。バリューも創業当初は3つでしたが、いろんなカルチャーで育った人材、フェーズの違う人材が一つの会社に集ってくる上で、いろんなズレを指摘する上で必要に迫られて、最終的に現在の7つになりました。逆に言えば、どんな仕事でも、結果を出せない理由、どこに行っても通用する普遍的戦闘力はある程度抽象化できると思っています。

 

共通言語って大事で、例えばメンバー間で仕事において何かを指摘したり、ズレを修正する上でも、人格否定とか個人的な意見を通すといった次元ではなくて、建設的な話し合いのツールとしても機能します。そしてそこを意識して修練を重ねることで、最短でできるようになるというか。僕も完璧な人間ではないので、時には目的からズレていくこともある。そんな時はビジョン・ミッション・バリューから外れないように意識しています。ある意味で、不自由芸術をやっているんですね。

 

竹田:僕は、不自由芸術の美学が好きですよ。坂本さんって、代表として顔を出さないルール(不自由)を作ってゲームを楽しんでいるようにも見えます。ルールを設けることが、強さに繋がっているのかなと感じました。それに、事業を始めた時から自分の中でゴールを設定して、そこからブレなかったから今のフライミーがあると思うんです。得てしてスタートアップは軸がブレがちですから。

 

坂本:そうですね。ブレないことは大事ですね。みんな、目先に追われ、短期的な利益追求に流されていきますよね。でも、ビジネスの力って、投資の世界も同じですけど、中長期的な時間軸で捉える資質が大切だと思います。一過性で終わるか、大成するかの違いはそこにあるのかもしれません。

 

竹田:俯瞰的に見ると、ルールがあるってすごく大事なことなのかなと思います。僕はサッカーが好きなんですけど、なんというかフライミーの組織って、現代サッカーっぽいなと思ったんですよ。

 

坂本:そうなんですね。それってどういう意味なんですか?

 

竹田:現代サッカーって、全体的なルール決めのようなことを重視しているんです。全体でこう、こっちがこう動いたら、こっちはこう動く、みたいなことを決めることが多いんですけど、それが特定のポジションではないんですよ。自分の役割を越境していくことが善とされていて、決められたルールの中で役割を越境していく。そうすると、一人ひとりではなく、全体が一つの生き物みたいに動く。試合の中でイレギュラーも起きるわけですけど、そこで一人ひとりが組織を考えて、どう独自の判断ができるのかというのがチームの強さだと思うんです。ムービーのコピーの話だけじゃなく、今回のプロジェクトを進める中で何度もそれに似た動きを感じたんですよね。

不自由芸術からFLYMEeが生まれた

 

竹田:そもそも坂本さんは、どんな考えからフライミーの創業に至ったんですか?

 

坂本:僕が起業する上で最初から明確に決めていたのは、テクノロジーを手段にしつつ、企業としての本当の勝負どころはアナログにある事業にすることでした。起業に向けて色々考えていたところに東日本大震災がきて、それからスイッチが入って頭が動き始め、「あ、家具か」って震災の10日後にふと思いついて。事業のイメージと設計が頭の中で一気に構築されていったんです。「こんなサービスがあったら自分は使うな」って思った。やるからには社会的にインパクトがあることをしないといけないし、普遍的に生き残るにはアナログなものに強みを持つべきだとか考えていくうちに、自分がやったら誰よりも意味があるものを作れるなと感じたんです。

 

竹田:ここでまた「アナログなものを扱う」ってルール(不自由)を作ったんですね。

 

坂本:全然意識してなかったですけど、そうかもしれないですね(笑)。

 

竹田:坂本さんが「アナログなものを扱う」ことに自分のやる意味を見出した、その背景が知りたいです。

 

坂本:背景となると僕の身の上話のようになってしまうのですが、僕は両親が医学部の世界の人だったから、小さいころから何となく医者になろうかなと思っていました。大学教授でしたから、別に跡を継ぐ必要はなかったんですけど。だから受験時代も理系で。高校は仙台ではトップの進学校だったんですが、高校一年で病気になって、手術して、薬をずっと投与されて副作用にやられて、みたいな感じで苦労したのもあり、高校では勉強についていくのがやっとでした。でも志だけはあったので、最短でリカバリーする方法を探って、高校三年の時に一部のトップクラスの受験生の間で評判だった授業を東京に受けに行ってみたんです。

 

そこで僕が志望していた東大の理科三類(医学部)に実際に入る学生のレベルの高さと、東大理三出身の天才的数理感覚の先生の授業を見てすさまじい衝撃を受け、自分のレベルの低さと井の中の蛙感を強く感じました。現役の時は当然のごとく失敗して、18歳で上京して浪人しました。浪人してから、僕自身も大手予備校の東大模試や全国模試で全国一位とか一桁台の成績を取るようになったのですが、それでも理系の感覚では自分より優秀な人がいっぱいいた。衝撃を受けた理三出身の先生には、ものすごく可愛がってもらって毎週のように個人的に食事に連れて行ってもらっていましたが、いろんな話をすればするほど、特に数学的センス、理系的センスの違いに愕然としました。これは努力どうこうではなくて、点数は取れるけど、そもそも適性というか才能がないなと。

結局、最後は受験直前に考えが変わって急遽文転するんですが、この経験は、僕自身が一番価値を生める、意味を持てる事業がなにか、ということを考える上でかなり影響しました。自己の強みを客観視した上で、テクノロジーを主力にする事業はやめようと。そこの不自由芸術を貫いている意識はあります。

 

竹田:不自由芸術って良い言葉だなあ。それが結構大事なことなのかもしれない。ビジネスにおいて、やらないことを決めたほうが強みが出ますね。

 

坂本:そうですね。それが戦略ってことだと思います。人も会社も競争の本質は同じで、「周りがやっているからやる」とか「これも取り入れたほうがいいかもしれない」とか、周りに影響されてズレていくと、強みを見失って結局負けてしまう。そんな感覚はありますよね。クリエイティビティって目的への解像度というか、戦略性とある意味同じようなことですが、その力とコミュニケーションの力、人への解像度がビジネスにおいては非常に重要だと思います。

 

竹田:坂本さんは人と人の関係性をよく見ていますよね。取引先とつながっていくプロセスについて、「フライミーをとりまく人々」で『karf』の島田雄一さんと話した時に明かしていましたが、「いつどのように知り合うかは大事だなと思っていた」と言っていました。手当たり次第に声をかけて何社か引っかかればいいって感じじゃなくて、人によってアプローチを変えている。

 

坂本:そうですね。思想のあるメーカー、ブランドほどこだわりが強いので、創業時から取引先を開拓していく際は、かなり綿密に、慎重に考えつつ、戦略性があったと思います。でも、そもそも家具は好きで学生時代から買っていたので商品知識はそれなりにありましたが、業界知識は全くなかったんですけどね。

 

これは笑い話ですが、現在の中核社員の中に、創業期の僕たちがデモを持ってプレゼンしていた相手(メーカー)側だった人がいるんです。当時、「この大変な業界で上手くいくはずがない、可哀そうに…」と思っていたそうです。業界知識がある人たちからすると、「FLYMEeのモデルを実現するのは無理」と思われていたらしいんですね。でも僕たちはその障壁を深く意識していたわけではなくて、やるべきことが明確だったので「これを実現する」って一点集中で突き抜けていきました。他に選択肢はなかったから、もう必死。ひたすら前に進むしかなかったんです。僕らは業界の人間じゃなかったし、変な固定観念がなかったから、それも幸いしたかもしれません。

 
 

「こんな価値観を持ったベンチャーもあるんだ」って知ってほしい

 

竹田:坂本さんの俯瞰した考え方や中長期で見る視点って、どこから生まれているんですか?

 

坂本:勝手なことを言えば、自分自身の幸福追求がベースにあると思います。社会に必要とされる仕事をして、いい人との繋がりの中にいられるって、幸せと密接に関係していると思っていて。それは僕の闘病経験の中で作られた価値観なんですが。

 

ある程度まで健康寿命を保って、精神的に健やかに感性的豊かさを持って生きるには、どれだけ周りの環境、損得勘定じゃない人間関係に恵まれることが大事というか。今EXITでフライミーを売却したらとんでもない金額になるのは分かっているし、一生何も考えないで遊んで暮らせると思いますが、一生働かなくてもいい生活をしていたら、早々に健康を害するかもしれない。僕の父は88歳まで働いていたけど、一見、体に負担がかかっているようで、その方が心身ともに健康を保てた。89歳で亡くなるまで、頭もはっきりしていて、入院しながらも、残したい論文を最後まで書いていました。やっぱり何かに貢献するとか、世の中から必要とされる、つながっているって大事なのかなと。実直に働いていたほうが幸せだという価値観がベースにあると思います。僕も今の事業が好きで、やりたくてやっているので。

 

竹田:今FIREとか流行ってますけど、そういうことと真逆の価値観ですね。それだけやりたいことがあるのは強いですね。キツイけどやり続けたいと思う事業もあれば、やりたいことじゃないから早く手放してお金に変えたい事業もあって。坂本さんは「こんなサービスがあったらいいな」から入っているから、自分にとっても魅力的な事業になっているんだと思う。ただ、どこかでバトンを渡すタイミングはきますよね。

 

坂本:そうですね。FLYMEeは20〜90代まで幅広い顧客層に支持されています。その中で僕自身も年を取るし、僕一人の感性だけでは、広がりのあるサービスを維持して、発展させていくのは難しくなってくると思っています。フライミーは感性のビジネスなので、世代ごとの感性や視点が大切で、これからはより若い世代の感覚や視点を取り入れながら、一緒にサービスを作っていく必要がある。僕がいることがサービスの発展の支障になると感じたら、それが辞め時なのかもしれないなと思います。ただ、今の段階ではその未来が見えているわけではないので、まだ自分がやることに意味があると感じているうちは続けようかなと思っています。

 

竹田:そうだろうなって感じます。いつか変わる時がくるけれど、今はその時期ではないし、まだ見えてこない感じもわかります。坂本さんの話を聞くと、EXITを目指す人たちって手放した後に事業が変わっても嫌だと感じないのかな?と思ったりします。

 

坂本:竹田さんってけっこうベンチャー支援をされているんですよね。そういう関わりの中でどう思われるかわかりませんが、事業にこだわりとか愛着がある人ってそんなに多くはないのかもしれませんよね。FLYMEeはもう二度と作れない事業だと思うし、自分たちの存在が大きく未来に影響を与えると思うので、やりがいもあるけど、そういう事業は結構珍しいとは思います。類似サービスがあったり、代替可能だったり、そもそも事業の意義がなかったりすると、どこかで熱が消えていくことは多いのかなと。経営者が飽きちゃうかもしれないし。そもそもフライミーの場合は現状、外部株主がいないので、EXITの義務がないですし。そういう意味ではフライミーは自分たちの思いで理想を追求できるので恵まれていると思います。

 

竹田:EXITしないという考え方、好きですね。ブルーオーシャンを探して事業を興したら、あとはいつEXITするかを探るスタートアップもありますよね。でも仕事って社会に対する役割を果たすことで、利益は役割を果たした結果もらえるものだと思うんです。最初から資金調達してどう分けていくかを考え始めると、日々の資金を回すことが目的になってしまう。

坂本:資金調達の方法が以前より多様化していることもあって、起業自体が目的化していたり、資金調達自体がファッションになっているような風潮はありますよね。とりあえずもっともらしいビジネスモデルをつくって、まずはファイナンスする。需要がないサービスなんて話にならないわけですけど、投資する側、デューデリジェンスする側もビジネスとか訳が分かってない人もいっぱいいるから、そこに投資しちゃう。

 

もっと怖いことを言えば、経営者自体もファイナンスに振り回されて、自分が何のビジネスをやっているのか、気づいたら見失って、訳がわからなくなっている人も多い気がしています。出資先とか相談に来る起業家や経営者と話していて、本当にファイナンスのイレギュラーなスキームとかめちゃくちゃ詳しいんですよ。僕なんかより全然わかってると思う。でもそういうことに習熟しすぎてる一方で、事業に目線が行っていないケースも多い。壁に当たりながらすぐに事業転換しちゃったり、軸がない中で多角化したり、それだと成功する確率は低いんじゃないかなと。

 

会社も本当は大枠のファイナンスから埋めるんじゃなくて、実際は目の前のものごとに取り組みながら抽象化していくのが成功のプロセスだと思うんです。ビジネスの最前線に居続けられる一流の人って地に足をつけて愚直に事業を進めている。そのプロセスは飛ばすことができないのだと思います。

 

竹田:プロセスで言えば、言葉の話に戻りますが、フライミーのビジョン・ミッション・バリューは、走りながら、その過程で必要になったものをプロットしていってるという。走りながら置いてきてるから、一つひとつが順番にできていってるし、ゆえに実用的なものなんだなと思って。僕もそれはすごい学びになりました。

 

坂本:フライミーのメンバーに対してもよく言いますが、若い段階で必要なプロセスをすっ飛ばすような考え方の人は、僕は基本的にはうまくいかないと思います。みんないろんなことをショートカットしようとしすぎますよね。無駄な努力は意味がないし、ショートカットはもちろん重要なんだけど、何でもかんでもすればいいというわけではないし、急がば回れ的なところはある。

 

竹田:変わった会社だと思います。やりたいことへの意思がそんなにない状態で入社した人って、会社に対する意思も薄いのが一般的な感覚かなと思っていて。逆に、こういうことをやりたいんだっていう人は、会社ではなく自分軸でやりたいことに向けてやってるから、会社と噛み合わないみたいなこともあるわけですけど。このある意味、会社の考え方とか教育の中で育まれていったことをやっているけれども、でも会社に対して意思をちゃんと向けられるっていうのは、フライミーには何だか不思議な人材が育っていますよね。そんな人材ってどうやって見つけるんだろうなっていうか、どうやって見極めているのか。

 

坂本:そこで言えば、やっぱり色々な意味で人間性を見ているのかもしれません。パーソナリティとか人柄の良さとか、そこだけは後天的になかなか変えられないですから。

 

竹田:人柄が良くて、でも自分をすごく持ってるっていう。ざっくりと理想的な言い方をすると、そんな人たちが多い印象ですね。

 

坂本:僕も世の中でいろんなジャンルで突き抜けている諸先輩方とたくさん会ってきていますが、最初の入り方は利己であれどうであれ、本当の意味で社会に認められ、大きな存在になって結果が出せる人って、一定のプロセスを経験してきた人だと思うんですね。そしてどこかのタイミングで、物質的な豊かさや野心に対する追求が利他的なほうへ移っていく感覚になる。仮にお金が目的であっても、そこが目的化すると本当の意味で金持ちになりづらいというか、そうじゃない境地に行った人がいい人に囲まれて、幸せにもなってて、結果突き抜けたお金持ちにもなってるというところはある気がします。

 

人それぞれ幸福の基準は違うし、何が幸せかは人それぞれですけどね。父が亡くなる直前、病室で最後に僕に言ったのは「家族に恵まれたし、本当に幸せな人生だった。ありがとう」と。決して経済的に恵まれた家庭でもなかったですが、父は最後まで社会性の中で生きられたことが大きかったのではないかなと。僕もそう言ってみたいとは思いました。

坂本:フライミーは震災をきっかけとして「意味のあることをやろう」と思って始めた事業ですが、意味を追求した結果として、気づいたら他者に貢献することができていて、協力者もすごく集まっていました。結局は、事業なり、その人の活動が社会や周りの人の役に立っていないと、自分を取り囲む環境に恵まれないし、ひいては幸せにならないなと思っています。起業した当初は必死だったから、そんなことを意識していなかったですけど、やっぱりどこかのプロセスで利他的な思考に移らないと大成しない感覚があります。その感覚をフライミーのメンバーにどう伝えていくか。メンバーがその感覚を掴む延長線上で、事業がより大きな価値を生み出していけるように、そんなことを考えています。

 

竹田:フライミーさんは、やっぱり特殊ですね。どう伝えたらいいのか、すごく悩みますけど。

 

坂本:僕は「言葉」に強いこだわりがあるので、これまで「言葉」というところで外部の方に手伝っていただいたことはなかったんです。この(コーポレートサイトリニューアル)プロジェクトを始めるにあたり、コピーライターを参加させたいというアイディアを聞いた時も、正直に言うと「大丈夫かな?」と思っていました。でも、こんなことプロに言うのもなんですけど、竹田さんのコピーライトというか言語化には違和感がなかった。それが僕の中では驚きでした。

 

竹田:僕は最近、言語化と言わずに「整理」って言い方をしているんですけど、自分の仕事は何かをゼロから生み出すというよりは、整理をしていると思っているんです。どちらかというと、算数的な作業に近いことをしています。

 

もともと僕が想像していたフライミーさんのあるべき姿が、最初にお話を聞いたあと、まったく違うものになったように、坂本さんや社員の皆さんからクイズのヒントをどんどん出してもらって、そこからこの謎解きを解いていくという、整理ゲームをしている感じの指向性ですね。なにか特別なメソッドがあるわけじゃなくて、ある意味では感覚的にそれを解いています。

 

今回、坂本さんや社員の皆さん、それからフライミーにまつわる皆さんの話をお聞きして、僕が整理したコンテンツを通して、フライミーのビジョンや熱量をより多くの方に伝えられたらいいなと思っています。

Profile

竹田芳幸 Yoshiyuki Takeda

コピーライター・クリエイティブディレクター

1983年生まれ。POOL inc.、電通デジタルなどでマス広告・デジタル広告・企業ブランディングのクリエイティブを経験し現在に至る。コミュニティFM「渋谷のラジオ」にて番組パーソナリティも務めている。

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